事業譲渡とは何なのか
事業譲渡は、読んで字のごとく事業を取引行為として他の会社などに譲渡することを指します。
この事業譲渡は、企業再編の手法の一つで経営の効率化を目的として事業を別会社に譲渡することで分社化したり、事業拡大のために他の会社から事業を譲り受けて事業の拡大を図ったりなど、経営が好調な企業のM&A手法として広く採用されていますが、下に上げたように経営不振に陥っている企業が経営を建て直すための方法としても広く活用されます。
会社の債務超過状態の解消
会社の債務超過状態を解消するために事業譲渡を活用します。
事業譲渡することによって、事業を譲渡した会社(譲渡会社)はその対価として金銭を得ることができます。多額の債務を抱えて経営に行き詰った譲渡会社が、事業を譲り受けた会社(譲受会社)から得た金銭で債権者に対して一括弁済し、それまでの債務を精算した上で再スタートすることができるのです。
経営の健全化を図るため
会社の財政状況が悪化した際に事業譲渡を行い、その対価によって残りの事業の再建を図ったり、赤字が続き経営不振の事業部門を関連会社など別の会社に事業譲渡したりすることで経営の健全化を図ることも可能です。
もっとも、事業譲渡を行うと譲渡会社には「競合避止義務」が生じるため、その点には注意が必要です。
再建以外を目的とした事業譲渡
事業譲渡は、企業再建以外の目的にも活用されます。
例えば、会社が経営に行き詰まり従業員の雇用を維持するのが難しくなったり、これまで存続させてきた事業が途絶えてしまう可能性がある際に、事業譲渡することにより譲受会社で事業の存続を図ったり、従業員の雇用関係を継承させたりすることで、事業と従業員を守ることもできるのです。
この事業譲渡による事業再建については、中小企業白書においても次のように記述されています。
「自力再生が困難であっても、それが直ちに廃業しか道がないことを意味するわけではない。企業内部の資源だけでは再生が難しくても、他企業の資源と組み合わせたりすることによって事業の再生が可能であることも十分あり得る。
例えば製造業を営む企業が、今までは外注であった工程を内製化することを考えている場合には、全くの新規で生産ラインを整え、技能を有する従業員を育成するよりも、既に設備や技能を有している企業から譲渡を受ける方が効率的である場合がある。また、生産能力の増大や多角化を目指す企業にとっても同様のメリットがある場合がある。
そのような事情から事業譲渡を受け入れるニーズがある企業と自力再生が困難な企業のニーズが合致すれば事業の一部としての存続が可能であり、これも再生の一形態と言える。
譲渡する側にとっても、そのことによって従業員の雇用が確保され、また仮に譲渡の対価が得られれば、債務を少しでも減らすことも可能であろう。結果として、倒産よりも影響を軽減できる可能性がある。」
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡は上記のように会社再建に活用されることもありますが、合併や会社分割と異なり、あくまで取引法上での行為であるため、事業譲渡によって資産や負債が譲受会社に必ずしも引き継がれるとは限りません。
事業譲渡では当事者が契約によって自由に譲受会社が引き継ぐ資産や負債の内容を決定することができます。必要な事業のみを承継できるという当事者双方にメリットを生むことができるのです。
さらに、帳簿に記載のない簿外債務や保証債務・手形債務といった偶発債務の発生による不測の損害を防ぐことができるという譲受会社にとってのメリットもあります。
手続き上のメリットも存在し、事業譲渡の際には会社法上株主の保護手続きは必要ですが、債務者保護手続きは会社法上必要ないので、債務者が反対したとしても事業譲渡を行える点がメリットになります。
デメリットとしては、譲受会社に資産や負債を引き継がせるには個別に手続きを行う必要がある点です。相手方の同意が必要なため契約が煩雑になりがちです。また、行政上の許認可を引き継げない点や、株主総会の特別決議が必要になることもデメリットとして挙げられます。
事業譲渡により発生する税金
事業譲渡は、譲渡日における時価による資産の譲渡と見なされるため、譲渡損益が発生し、課税所得計算の対象になります。
譲渡価格が時価と乖離した場合は、寄附金課税や受贈益課税の問題が発生します。なお、負債を譲渡対象とした場合は、事業譲渡代金からの減額分として扱われます。
また、事業譲渡は資産の譲渡という取引行為に当たるため、対象資産の中に課税対象があれば消費税が課税されます。
さらに、事業譲渡の中に不動産が含まれる場合は、第三者に対抗するために所有権等の移転登記を行う必要があり、そのための登録免許税がかかります。不動産を事業譲渡により譲り受けた譲受会社には、不動産取得税が課税されます。
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